センターの目的

 1989年の冷戦構造崩壊直後、各地で暴力的紛争が生じました。代表的なものだけでも、ソマリア、ユーゴスラヴィア、ルワンダ、ナゴルノ・カラバフなどを挙げることができます。これはいずれも特定地域の暴力的紛争が国内に留まったり、越境して隣接国に波及したりするということで、冷戦以前に想定していた「戦争=国家間紛争」というパラダイムの転換を我々に迫るものでありました。こうした紛争は地域紛争と総称することができます。実のところ、冷戦終了前にもこの種の紛争は生じていましたが、それらは「内戦」「内乱」などと扱われてきました。また、2001年9月11日の同時多発テロ事件後に始まった「対テロ戦争」や「アラブの春」に伴う混乱、2015年の欧州難民危機やそれに伴うヘイト・クライムやテロにも、地域紛争が深く関わっています。2021年2月のミャンマー軍事クーデターの今後も、以前から見られてきた政府とカチン人、カレン人、イスラーム教徒の対立との関係を注視する必要があります。中国の新疆ウイグル自治区やチベット自治区の動きも地域紛争化する可能性を内包しています。このように見てくると、地域紛争はこれまでに想定されてきている以上に、現下の国際関係に大きな影響を与えていることが分かります。
 こうした各地の地域紛争の発生原因、紛争過程、事後の状態に関しては、個々の事例に関する優れた研究があり、それらを鳥瞰的に整理する我が国の研究の場としては、アジア経済研究所や各地の大学における地域研究関連のセンターやユニットがあります。しかしともすれば、その多くの研究の中心は当該地域に限定されています。そこには「比較」の視点が欠けていると言わざるを得ません。他方で、国外における地域紛争研究は非常に実践志向的であります。その為に「金太郎飴型」のリベラルな平和政策が各地で実施され、その無残な結果は周知の通りであります。
 地域紛争研究センターの目的は、こうした現状を鑑み、多くの地域紛争の事例に関する研究報告と意見交換を行い、各研究者における「比較」の軸の構築を促し、今後の地域研究や対外政策の一助とすることです。