地域紛争研究の意味

 「地域紛争」は、非常に広い意味を持つタームです。まず「地域」regionとは一定の地理的な大きさに限ることはできません。地域とは、一定の特徴を共有している、当該地域の構成員が同一の地域に帰属しているという意識を有している、など、何らかの共通点によって区切られる範囲であると言うことができます。従って、ある都市の一部、ある国家の一部、そして複数の国家やその一部から構成される範囲も「地域」になり得るのです。
 次に「紛争」conflictというと、私達は暴力や大量殺戮、テロ、難民を思い浮かべがちですが、紛争とはそもそも、複数のアクターが互いに両立し得ない目標、要求、立場などを持ち、そうした非両立性が既存の枠組みでは解決できない状態を意味します。従って、夫婦喧嘩や友人との口論から始まり、内戦や国家間戦争、世界大戦、そして(私達が観測できればですが)星間戦争も、紛争のひとつです。
 こうした「地域」と「紛争」を結びつけた「地域紛争」には、様々な事例が含まれることは言うまでもありません。とはいえ、世界各地で発生した、もしくは発生しそうな暴力的な紛争から、まずは研究に取り組んでいきましょう。しかし、それでも「地域紛争」研究には非常な難題が横たわっています。
 この難問にどう取り組めば良いでしょうか。「地域研究」という学問分野があります。「地域研究」は、そもそも「相手」を探るという非常に戦略的な理由から、アメリカ合衆国で生まれた学問分野であるとされることが多いです。しかし少なくとも日本における「地域研究」には、そうした戦略性が稀薄です。対象地域について現地調査を丁寧に行い、対象地域の政治、経済、社会、文化などを深く探ることに、研究の主眼が置かれています。そこでは非常に重要な知見があきらかにされることも多々あります。他方で、それぞれの対象地域の特殊性に拘るが故に、地域間の比較がしばしば困難となっていきます。「地域紛争研究」においては、各事例のみならず、その紛争を生み出すに至った様々な背景にも触れていきます。そうなれば、紛争を切り口に、各地域の政治、経済、社会、文化について、それぞれの学術的ディシプリンを駆使しながら、各地域の研究を架橋することも可能になるのではないでしょうか。そこに「地域紛争研究」の醍醐味のひとつがあると考えています。勿論、無謀な試みであるかもしれませんが、そうした醍醐味を皆さんと共有できるように、少しずつ迫っていきたいと思います。